特発性骨壊死症を疑う変形性膝関節症の一例
光ヶ丘鍼灸院 飯田 寿

1.はじめに
変形性膝関節症の初期に脛骨内側顆骨壊死を疑う症例を経験したのでここに報告する。

2.症例
初診日H18.4/25 67歳女性
主訴 両膝の痛み。

現病歴
他鍼灸院で長期治療後、転居のため当院へ来院。膝の痛みは徐々に悪化したのではなく、左膝にある時、外出中に突然発症した。その後、左をかばうため右膝も痛くなった。安静時痛、夜間痛有り。両肩に疼痛、ROM制限両肩とも150°、変形性腰椎症からの腰痛もある。本日、整形外科で膝の水を抜いた。

現症状
膝の変形は軽度。左の変形がやや強い。膝関節内側、鷲足に強い圧痛。

3.治療方法
膝に干渉低周波を当てた後、血海、梁丘、曲泉、陰陵泉に刺針。血海、梁丘、関節裂隙の圧痛部に温筒灸(達磨STマイルド)

4.治療経過
治療スタッフに同様の治療を継続するように指示したが治療直後も疼痛緩和はみられず、H18.4/25からH18.6/7までに24回受診し、その半分で膝の治療を行い、他の同程度の変形性膝関節症の症例と比較して治りが遅く、患者の愁訴は続いている。大腿四頭筋訓練を行うようすすめるが、続かない。
6/8に足を捻ったところ疼痛が悪化し、再び院長が所見を見直した。@発症状況は突然発症しており、典型的な変形性膝関節症の発症状況ではなかった。A理学所見として、変形性膝関節症の初期例では確認しがたい内側関節裂隙部と脛骨内側顆部の非常に強い圧痛所見が確認できた。B関節内水腫が存在していたが、整形外科で水を抜いても、鍼灸治療で水腫が軽減しても痛みの軽減がみられない。C脛骨の叩打痛を確かめると、脛骨中央を叩いても左脛骨内側顆に痛みが響き、左脛骨内側顆への指頭での叩打痛がある。D以前に通っていた鍼灸院での治療期間と当院での治療期間でも疼痛の改善がみられなかったため、脛骨内側顆骨壊死を強く疑った。患者に治療期間が長期に及ぶことと予後を説明し、スタッフに治療を継続するように指示した。
後、H19.8末までに130回受療、その1/3で膝の治療を受ける。現在は膝の痛みは比較的気にならず、(圧迫骨折が疑われる)腰痛が主訴であるが膝は完治していない。

5.考察
変形性膝関節症の前、中期の痛みは一般的に比較的容易に症状の改善が得られるが、今回の症例では一定期間の治療を行っても症状の変化をきたさなかったため、骨壊死などの病態合併を考慮し対応する事が必要と考えられた。

参考文献
標準整形外科学 第6版 医学書院 1996

全日本鍼灸学会雑誌
鍼灸治療に抵抗を示した変形性膝関節症に 特発性骨壊死症合併の1症例
越智 秀樹1)  勝見 泰和2) 矢野 忠1)  池内 隆治1)  北條 達也2)
1)明治鍼灸大学 臨床鍼灸医学教室
2)明治鍼灸大学 整形外科学教室
(Journal of Japan Society of Acupuncture and Moxibustion)
2001; 51(5): 611-616 .



附則

1968年にAhlbackらによって膝関節特発性骨壊死が一つの疾患単位として報告されて以来、膝関節特発性壊死は二次性の変形性膝関節症の原因の一つとして注目されるようになった。当初は、骨壊死は大腿骨内顆に発症すると思われていた。1996年版の標準整形外科学にも膝の特発性骨壊死は大腿骨内顆のみが掲載されている。次第に大腿骨外顆にも本疾患が発症することが認められた。その後、本症例のように脛骨内側顆部への発症も確認されだしたが現在においても未だまれな症例とされている。しかし、2001年以後に明治鍼灸大学でイタリアESAOTE社製の四肢専用MRIシステムを用いて膝関節部の撮影を行うと、1%の高い確率で本疾患が見受けられた。このことから本疾患がまれな症例とされているのは四肢用のMRIが普及しておらず、レントゲンのみの診断が多いためと考えられる。また、発見された本疾患のほとんどの症例で4ヶ月ほどの継続治療で症状の軽快がみられたと報告があることから、通常の変形性膝関節症の症例に埋もれて見過ごされていると考えられる。このことから、鍼灸治療が効果の薄い変形の少ない変形性膝関節症を見つけたとき、特発性骨壊死症を疑い、理学検査をして確信したら、患者に単純な変形性膝関節症ではなく、治療が長期にわたることをムンテラすることをおすすめする。治療法は通常の変形性膝関節症の症例と変わりなく、治療期間が長期にわたることが違いである